東京高等裁判所 昭和40年(う)481号 判決
被告人 金政夫
〔抄 録〕
控訴趣意第一点 事実誤認の主張について
原判決挙示の証拠、特に被害者M子の公判証言及び原審公判廷において被告人及び弁護人が証拠とすることに同意し、適法に証拠調を了した被告人の検察官に対する供述調書を総合すれば、被告人は原判示の日時、原判示の国電内において、カバンを網棚の上にのせ、乗客M子の前に立つていたが、いたずら心から自己の膝を強く同女の膝にすり寄せたこと、同女が膝の上に持つていたハンドバツクで被告人の足を押しのけたところ、被告人が又足を強くすり寄せ、それが二、三分続いたこと、その後同女の向い側の席が空いたので、被告人はそこに座つたが、下車駅の蒲田駅に着く直前に立上り、同女の上の網棚のカバンを取るべく同女の側に来た際、再び足を強く同女の膝の間入れたこと、M子は憤慨して足で被告人の靴を払いのけたこと及び同女が当時恐ろしくなり又恥しく思つたことがいずれも認められ、所論のごとき電車のゆれ若くはカバンの上げ降ろしの際、同女の足に触れたかもしれない程度のものとはとうてい認められない。右認定の被告人の一連の行為が本件条例五条一項所定の「卑わいな言動」に該当することは多言を要しないところである。
同第二点法令の適用の誤りの主張について
所論は、元来本件条例は、五条一項所定の場合を含めすべてぐれん隊的強度の違法性を具備した行為のみに適用され、平素の電車内における単純な乗客どうしの過失による接触行為のごときは処罰の対象にならないと解釈すべきところ、被告人はぐれん隊ではなく、又被告人が仮りにM子の膝に触れたとしても、それは電車のゆれなどの際の過失行為に過ぎないのであるから、かかる行為に前示五条第一項を適用した原判決には誤りがあるというのである。
しかしながら、本条例は、その制定の趣旨が一条に明記されているとおり、「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等」の防止を目的とするもので、ぐれん隊のみを対象とするものではなく、その二条ないし七条所定の構成要件該当行為をなした者については何人といえども適用があると解釈すべきところ、被告人の本件行為が前示のとおり、右五条一項所定の「卑わいな言動」に該当する以上、たとえ被告人が所論のごとくぐれん隊でないとしても、その適用を受けることは当然である。もつとも右条項が故意犯にのみ適用され、過失犯が処罰の対象にならないことは、所論指摘のとおりであるが、被告人の行為が所論のごとき過失犯に該当しないことは既に述べたとおりであり、原判決には何ら法令の適用の誤りはない。論旨は理由がない。
(三宅 石田 寺内)